『ライフルスコープを使いこなす』

~ライフルやスラッグ銃の性能を最大限発揮するために~

企画:AEGハンターズショップ

写真・文:小堀ダイスケ

 

第5回 スコープの調整方法 ~狙ったところに命中させる~

 

スコープを銃に載せたら、次にやらなければいけないのが「ゼロイン」です。

 

ゼロインとは

ゼロインの方法

狙ったところ、つまりレティクルの中心にちゃんと弾が当たるようにするための作業で、これをおろそかにするとどんなに良いスコープや銃でもまったく当たりません。

やり方としては、上下と左右の調整ダイヤルを回し、レティクルの中心と着弾点とを一致させていきます。

ただし、標的紙に穴が開かなければ調整のしようがありませんので、まずはその前に銃口が向いている方向とスコープの狙点をおおまかに一致させる必要があります。

ボルトアクションであれば「ボアサイティング」という方法で、それ以外の形式の銃の場合はスコープサイターやレーザーサイターという道具を使います。

 

レーザーサイター。

自動銃などボアサイティングが

できない機構の銃に使う装置。

銃口に挿し込み(薬室に入れるタイプもある)、

レーザー光線を発射、

安全な対象物に向けて光点とレティクルの中心を一致させる。

正確なゼロインにはならないが、

弾があさっての方向に飛んでいくことだけは防げる。

 

スコープサイター。

内部に格子状の線が描かれており、

銃身先端に取り付けてスコープで覗くことで

銃身軸と照準線をおおまかに合わせることができる。

 

スコープを交換する際、

あらかじめレティクルがサイターの

どこにあるかを記録しておき、

交換したスコープのレティクルをそこに合わせれば、

ほとんど着弾点が変わらずに済む。

射撃場へ行く時間がない場合など、

試射と再ゼロインの手間を最小限に抑えられる。

 

ボアサイティング

ボアサイティングのやり方は、まず、銃をしっかりとした台の上に置き、ボルトを抜いて機関部の後ろから銃身を通して標的を覗きます。

射撃場での距離は50mで、標的紙は赤など目立つ色のものがいいでしょう。

銃口の向こうに標的紙が見えたら、銃身の中心に来るよう銃の位置を微調整します。

 

ボルトアクションの銃でないと

ボアサイティングは不可能だが、

もっとも単純で手間をかけずに

銃身軸と照準線を交差させられる方法。

 

分かりにくいかもしれないが、

銃口の向こうに標的紙が見えるだろうか。

この状態からボルトを戻して撃てば、

標的紙のどこかには当たるはずだ。

 

スコープ側の調整

レティクル調整

次に、銃には触れずに(銃の位置がズレてしまうため)スコープを覗きます。

頬付けをせずに覗くのは難儀ですが、ケラレの影が少々出てもレティクルと標的さえ見えれば問題ありません。

この段階ではおそらくレティクルと標的の中心がかなりズレているはずなので、上下と左右の調整ダイヤルを回してレティクルの中心を標的の中心へと移動させます。

 

この状態ではレティクルが標的の中心にない。

このままでは銃口の向きと

照準線が大きくズレているため、

弾痕不明となる可能性が高い。

 

銃身内とスコープを交互に覗き、

銃口とレティクルの両方が

標的の中心に合った状態から試射をはじめる。

 

これで銃口の向きとレティクルの中心がだいたい重なったことになるので、初弾から標的紙のどこかには弾痕が空くはずです。

まずは標的の中心を狙って1発撃ったら、弾痕が中心から上下左右にそれぞれ何cm離れているかを確認します。

たとえば、この例のように下に15cm、右に9cmのところに穴が空いたのなら、レティクルをその場所まで動かして、狙点と着弾点を一致させるわけです。

 

標的の中心を狙って撃ち、

仮に黒いシールのところに当たったとすると、

着弾点を左上に動かして

中心に持っていく必要がある。

 

スコープダイヤルの回し方

ここからいよいよスコープのダイヤルを回していきますが、スコープには調整ダイヤルが2つあり、上に付いているダイヤルで上下方向を、射手から見て右側に付いているダイヤルで左右方向の調整をします。

上下のダイヤルにはUPやDOWN、左右のダイヤルにはLEFTやRIGHTの表記と矢印が書かれており、着弾点をあげたいときはUPの方へ、下げたければDOWNの方へ回します。

当然ながら着弾点を左に動かしたければLEFT、右ならRIGHTということになります。

この例の場合なら着弾点を「左上」に動かしたいわけですから、上下のダイヤルを「UP」、左右のダイヤルを「LEFT」の方向に回して、着弾点を標的の中心に持っていきます。

 

調整ダイヤルの表記は

メーカーによって異なるがどれも意味は同じ。

これはUPとDOWN、LEFTとRIGHTという

表記になっているが、

UPだけの表記やLもしくはRだけが

刻印されているという物もある。

いずれの場合もその表記の方に回せばその方向に、

反対に回せば反対方向に弾痕が移動する、

という意味である。

 

これは国産ハッコー製(現在は製造中止)の

通称「軍艦スコープ」。

ご覧の通り4つも突起があるため

一瞬どれを回せば良いのか戸惑うが、

上面前方は発光ユニットの電池ボックスで

左側面はフォーカスダイヤルなので

ゼロイン作業には関係ない。

 

MOA=ミニッツ オブ アングル とは?

この場合、標的の中心に当てるためには、上に15cm分、左に9cm分移動させる必要がありますが、ダイヤルを1クリック回したときにどの距離でどれだけ着弾点が動くのか、ということを把握しておかなければなりません。

これがMOA(=ミニッツ オブ アングル)という単位で、移動量とも呼ばれます。

MOAには1/2、1/4、1/8、などがあり、1/4MOAがもっとも一般的です。

これは1クリックすると100ヤード(約90m)で4分の1インチ(6.35mm)移動するという意味で、4クリックなら1インチ(25.4mm)移動します。ただし100mではもう少し大きくなって約3cm、また50mなら約1.5cmということになります。

 

おっと、このあたりで早くも頭がこんがらかってきたゾ、という方もいるかもしれませんが、大丈夫です。

実用的なお話をシンプルに解説するのがこの連載企画の趣旨ですので、以下に射撃距離別に各MOAごとの1クリック移動量を表にしました。

 

1/4MOAの調整ダイヤル。

数字の分母が大きいほど

移動量は「小さく」なるため、

移動量が同じなら1/8MOAでは

たくさん回さなければならず、

反対に1/2MOAなら

クリック数は少なくて済む。

 

レティクル移動の実際

今回はスコープの移動量が1/4MOA、射撃距離は50mなので、上下調整ダイヤルをUP方向に40クリック、左右調整ダイヤルをLEFT方向に24クリック回せば、弾痕が上に15cm、左に9cm移動し、レティクルの中心に命中するはずです。

 

実際には何発か撃ち、

集弾した場所の中心部分を

基準に考える必要があるが、

あくまでも着弾調整の概念を

ご理解いただくため、

1発の弾痕から

単純にクリック数を割り出した。

 

実際には弾痕が移動しているのではなくレティクルが移動しているのですが、不思議なことに、スコープを覗きながらダイヤルを回してもレティクルが動いてるようには見えません。

これは「イメージムービング」と呼ばれる仕組みで、スコープ内部ではちゃんとレティクルが動いています。

ちなみに、古いスコープの中にはこの仕組みがない物もあり、その場合、ダイヤルの操作に応じて視界の中でレティクルが上下左右に少しづつ動くのがわかります。

 

また、上記の表はあくまでも理論上の数値であり、必ずしもこの通りになるとは限りません。

特に安価なスコープの場合、ダイヤルの精度があまり良くないため、クリック数が増えるほど誤差が積み上がってしまい、計算通りに行かないことも多々起こります。

しかし、調整ダイヤルを「UPの方向に回すと着弾点が上がり」、反対方向に回すと下がる。「LEFT方向なら着弾点が左に行き」、反対なら右に行く、ということをまずはしっかりと理解しましょう。

 

ちなみに、オールドツァイスなど古いヨーロッパ製スコープの中には、ダイヤルを回す方向がアメリカの製品とは逆のものもあります。

しかし、表記通り、H(Hoch~上の意味)の方向に回すと弾痕が上に移動し、R(Rechts~右の意味)の方向に回せば右に移動するという意味では同じです。

 

古いカールツァイスのスコープ。

アメリカ式とは反対に

上下の調整は時計まわりで上へ、

左右は時計まわりで右へ移動する仕組み。

移動量も100mで1クリック1cmに設定されており、

日本人にも理解しやすい。

 

ゼロセット

ゼロインが終わったら、調整ダイヤルの目盛りを基準点に戻しておく必要があり、これをゼロセットといいます。

遠距離狙撃をするため調整ダイヤルを大きく動かした場合など、基準点がわからなければ元に戻しようがないため、忘れてはいけない大切な作業です。

 

調整ダイヤルがイモネジ固定の場合、

緩めるとダイヤルがフリーとなり空転する。

ダイヤル0の位置を基準点に合わせ、

再度ネジをしめればゼロセット完了。

 

リューポルドなど、

目盛りの方を動かして

ゼロセットするタイプもある。

ちなみにこれは1/2MOA。

 

調整ダイヤル自体を持ち上げると

フリーになるタイプ。

そのまま基準点に合わせて

押し戻せば再度固定される。

 

遠距離狙撃の場合、

着弾点を大きく上げるため

調整ダイヤルを何周も回すことがある。

そんなとき、バーニアスケールと呼ばれる

横線が入ったスコープなら元に戻しやすい。

 

スコープというものは、狙ったところに当たらなければまったく意味がありません。調整方法をキチンと理解し、最低限のゼロイン作業くらいは自分で行いたいものです。

初心者はもちろん、ベテランハンター諸兄も初心に戻っていま一度、ご自分のスコープと真剣に向き合ってみてはいかがでしょうか。

 

次回はいよいよ最終回。ドットサイトやホロサイトなど、スコープとは似て非なる光学照準器について解説いたします。

 

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次回、最終回はこちらから

連載『ライフルスコープを使いこなす』 最終回『スコープ以外の光学照準器~ドットサイトとホロサイト~』

前回のお話はこちらから

連載『ライフルスコープを使いこなす』 第4回『スコープを銃に載せる~自分で作業する際に知っておきたいこと~』

 

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