はじめに
令和7年1月度の新年ブログ記事、本年も宜しくお願い申し上げます。
当方は株式会社ビクセン様のカスタマーサポート業務(狩猟用光学機器に限り)を現在承っておりますが、お客様から受けるお問合せのひとつに「なぜか狙った所に当たらなくなってしまったが理由はわからない。たぶんスコープ?」といったものがございます。
今回記事では、当たらなくなってしまった原因の深掘りに焦点を当ててみます。
「あれ? 原因はライフルスコープではなかったのかも?」と、スコープ以外にある潜在的な問題の可能性も視野に入れつつ記事をお届けして参ります。
本記事内では、MOAという単位が出て参りますが、狩猟向けとして、1MOA=約3㎝にて話を進めて参ります。
注:厳密には3cmではなく+/-2.9cmとされ、この3cmという解釈では射撃距離が長くなるほどに着弾点に誤差が生じることが知られていますが、ここでは約3cmとして話を進めます。
1 締め付けのトルクは?
こちらのお問合せ「スコープリングの締め付けトルク」はナンバーワンです。
トルクの前に、そもそもスコープリングの品質によっては前後のリングが真円ではない場合があります。
このまま取り付けるとスコープが斜めに取り付けられることになり、スコープの破損へつながります。
この場合、ラッピングツールと呼ばれるスコープ取付け用の専用工具を用いることも可能です(※ドイツ製のデントラー、エラタックではラッピング不要)。
さて、ご自身で新たに購入したスコープ、あるいは譲ってもらったスコープを自分で取り付ける際、リング締め付けのトルクは気になるもの。
海外と日本では使用される銃器が異なる場合が多く、ネジの種類にもよりますが、一般的には22~28 inch-poundsが銃器側(ベース/レシーバー部)への締め付けトルクとされ、スコープリングは使用するキャリバーにもよりますが、15(約1.7Nm)~最大18 inch-pounds (約2.0Nm)以内が推奨されています。
※メーカーによる推奨値に大きな差異はありません。
2 破損は修理が厳しい
ライフルスコープには多くのレンズが内蔵されています。
締め付け過ぎにより外径が歪み内部の部品が破損してしまうと、修理をするよりも改めて購入した方が安価という事態になることもあります。
自動車のエンジンを組み直すといった要領で強く締め付けてしまうと光学機器は簡単に壊れてしまうことから、過剰な締め付けにはご注意ください。
スコープにはエレクターチューブという、レチクルを含む光学系が収まっている筒が内蔵され、過度の締め付けはこの筒の動作(エレベーション/ウィンデージ調整)を圧迫し、最悪の場合は破損させてしまいます。
よってリングの締め付けトルクは決して勘には頼らず、取付けに適したトルクレンチを使いましょう。
3 レチクルがズレる?
まず初めに、内蔵のレチクルそのものがズレる、ということはあまり起こりません。
少なくとも当方が取り扱ってきたスコープに限り、頻度はゼロではありませんが僅かです。
レチクル自体が斜めに取り付けられている個体には出会ったことがあります。
この場合はメーカー対応が必要な不良個体です。
ゼロインしたレチクルが自然に下へ落ちてくる、といったこともスコープの構造上起こりません。
ただし、ゼロインといった着弾点の調整動作を頻繁に行うことによりエレベーション等の調整箇所に用いられている内蔵のバネに不調が出る場合はございますので、ビクセンライフルスコープをご使用のお客様で動作が気になる方は当方へぜひご相談ください。
4 着弾点のズレ?
こちらは空気銃をご使用のお客様からたびたび受けるお問合せです。
「先週はレチクル中心を狙うと標的の中心だったが、今日は中心の上を狙わないと当たらない」
※レチクル中心で標的を捉えると下の方に着弾してしまう。
こうした問題に直面したとき、光学機器の不具合とは別の可能性を探ってみることで、正しい問題の解決へ向け不確かな可能性を排除していくことができます。
例えば、
●空気銃のエアー残量(出力)が何らかの理由で前回よりも減少しているかも?
●口径と重さが類似しているが新しいペレットを使っている
●バレル内を全くクリーニングしていない
等です。
空気銃の場合、ライフリングの溝にペレット射出時の鉛が入り込んでいますので、定期的にお手入れをしておくことで着弾に普段と異なる動きが見えた際、この部分の可能性の芽を摘んでおくことができます。
5 レチクルは破損するの?
レチクルは簡単には破損しませんのでご安心ください。
レチクルにはワイヤー式と、グラスエッチング式が存在します。
ワイヤー式の方は落下等の衝撃耐性(※リコイル時に発生する前後方向の衝撃ではありません)がグラスエッチング式に比べると低く、レチクル関連の物理的な故障分布はワイヤー式の方にありがちです。
理由はさまざまですが、狩猟中に落としてしまった、木に強くぶつけてしまった、などです。
しかしながら、ワイヤーレチクルが「切れた」というケースには未だ出会ったことがありません。
グラスエッチング式は複雑なパターンを用意できる反面、製造側のコスト高、細かいことを言えばグラスエッチングレチクルを採用している時点で光の透過率はワイヤーレチクルに比べると劣るとされます。
しかしながら、ハイエンドのスコープにはグラスエッチングレチクルが多く、この点を補完するために高度なレンズ設計や、高価なガラス材、コーティング技術が採用されていたりします。
ちなみにロングセラーのビクセン1インチスコープにはワイヤーレチクルが採用されています。
6 クリック数が多過ぎる?
スコープのエレベーション/ウィンデージには1/4MOA、1/8MOAといった表記があります。
これは1クリック当たりのレチクル移動量を示すものです。
100m先で約3㎝着弾点補正するには1MOA(4/4MOA、または8/8MOA)動かす必要があります。
ペレットを使った射撃では補正量が10MOA(約30㎝)になるという場面もあり、エレベーションダイアルをクルクルと回して酷使することは面倒な作業であり、高価なスコープでは避けたい思いもあるかもしれません。
代替手段はドイツ製タクティカルマウントのエラタック傾斜マウントです。
気になる方はぜひAEGハンターズショップ様へご相談ください。
7 加工エラーの場合もある
几帳面にスコープマウントを取り付けたにもかかわらず狙撃点と着弾点が大きくズレている場合、スコープのウィンデージ(水平方向)を大幅に動かす必要があることも。
この場合の原因はスコープの問題ではなく、その取付け方に問題があるか、あるいは銃器レシーバーのマウント取付け用の穴あけ加工が既にズレているといった、メーカー出荷時の加工エラーにあるケースも稀にあります。
こちらは空気銃というよりも装薬銃で顕著なケースです。
装薬銃では有効射撃距離が空気銃のそれよりも遥かに長いため、僅かな加工エラーが着弾点の誤差としてあらわれやすいことが理由です。
空気銃よりも有効射程距離が長い装薬銃でレシーバー部の加工エラーは顕著に表れます。
マウントメーカーによっては、あらかじめこうした事態を想定した仕様を用意しているマウント(*例えばデントラーマウント)もございますので是非ご相談ください。
まとめ
今期猟期も残すところ2ヶ月程度でしょうか。
射撃場、野外の狩猟フィールドでは安全確認を怠ることなく、引き金を引かないという選択肢を常に持ちつつ、楽しいハンティングをどうぞ。
【VEMA(ベマ):プロフィール】
ドイツと狩猟とおいしい話という狩猟用光学機器に関する情報発信Websiteを運営しています。DoRaSight(ドラサイト)、ドイツ製のデントラーマウント、及びエラタックマウントの日本販売総代理店です。
ドイツの狩猟見本市、狩猟事情にまつわるブログも不定期に書いています。
よろしくお願い申し上げます。
銃猟歴11年、知識先行型の現役ハンターで、紀州系猪犬でヨメ様(スタッフの一人)と2銃1狗で狩猟中。狩猟、射撃、アウトドア用品の発掘・販売がライフワーク。公務員経験が影響し、狩猟を取り巻く各種法令に関心強め。狩猟誌『けもの道』(三才ブックス)の立上人であり、現在は制作協力という名のもと監修、取材、ライターなど、よろず屋として何でもこなす。射撃場や猟場で見かけたらお気軽にお声がけください。