
■はじめに
早いものでブログ連載シリーズの最終回。
猟期も終わり、新シーズンへ向け気持ちを新たに射撃場へ向かう前に、猟銃とあわせ、ライフルスコープのお手入れをやっておきましょう。
というのが最終回のテーマです。
ライフルスコープは装薬銃のリコイルショックにも耐えうる丈夫な躯体を有する狩猟用の光学機器ではありますが、銃器とは異なり、構成部品にはガラス材が使われている複数のレンズ群が含まれていることに加え、その各表面には光の透過率を向上させるためのコーティングが施されています。
従いまして、スコープのお手入れ(特にレンズ部分)は非常に丁寧な方法で清掃をすることを心がけましょう。
【点検および清掃の前に】
猟銃にマウントされたライフルスコープを清掃または点検する際、銃器が必ず脱包状態にあることを何よりも一番初めに確認をしてください。
安全点検を怠ると、死に至る結果に繋がる場合がございます。
1.やってはいけないこと
やってはいけないその①:防水性能を過信しない
やってはいけないその①。
カタログに載っている防水性能を過信してはいけません。
狩猟に出かけフィールドで使った猟銃に載っているライフルスコープはホコリにまみれています。
猟場では雨や雪に濡れることもあったかもしれません。
狩猟は基本アウトドアですので、一般的にスコープの多くは防水仕様です。
ただ、そうは言ってもハイエンドなミルスペック製品を除き、スコープの防水性能というのはカタログスペックがどうであれ、生活防水の程度と理解しておく(※)方が、無理なくご使用いただけるかと思います。
※カタログスペックの防水性能はあくまで規定の条件下での実験結果です。様々な環境や使用状況が予想される実際の狩猟において、実験値であるカタログスペックを過信することは避けた方がいいということです。
やってはいけないその②:ジャブジャブ洗わない
絶対にやってはいけない②。
ホコリにまみれてしまったスコープを水に沈め、ジャブジャブゴシゴシと洗浄することは決して行わないでください。
過去に洗面所に汚れたスコープを沈め、洗浄してしまった方が実際にいらっしゃいました。
絶対にダメです。
スコープには電子部品が内蔵されているモデルもあります。
一般的な部位はイルミネーション(照明装置)周辺です。
細かなホコリが付着してしまった場合、先ずは、ブロワーや、ブラシ等で吹き飛ばせば、ホコリや塵を取りのぞくことができます。
やってはいけないその③:レンズをタオルで拭かない
絶対にやってはいけないこと③。
ホコリまみれのレンズを家にある一般的な布やタオルで拭き、汚れをとろうとしないでください。
レンズがひどく汚れ、絶対に清掃が必要だと感じる場合にのみ、レンズ用の柔らかいクロスなどで、優しくレンズを拭く。
この程度の感覚で大丈夫です。
ハンティングに出掛ける毎にスコープのレンズを清掃するといったことは不要です。
むやみやたらにレンズを磨こうとしたり、付着した汚れを取ろうとするとレンズに傷が付きます。
そして傷ついたレンズは取り返しがつきません。
従いまして、微細な砂塵が付着した状態のレンズ、或いは布などでレンズを擦ってしまうと、取り返しのつかない傷が付いてしまうこともあるため、ご注意ください。
やってはいけないその④:強い洗剤を使わない
絶対にやってはいけないこと④。
強力な合成洗剤等を用いた洗浄です。
強力な合成洗剤に含まれる物質がレンズ面の薄被膜コーティングにダメージを与え、結果的に剥離してしまうこともあります。
水で軽く洗い流す程度の感覚で大丈夫です。
ただし、このあとの手入れが大変重要です。
これも無意識にやってしまいがちですが、一般的な家庭用タオル等でスコープのレンズ面の汚れを拭いてしまうこと。
これもやってはいけないことの一つです。
レンズ面に確実に傷がつきます。理由は単純で、目地の洗いタオルにはホコリや、塵が多く付着しており(特に屋外の場合)、加えてレンズ面に塵、ホコリ等が残留している可能性もあり、それらと一緒に繊細なレンズ面を擦ってしまうことになります。
2.実際のお手入れ
(1) レンズ汚れ
レンズに付着した微細な汚れについては、少量の水で軽く洗い流したのち、綺麗な布で水分を吸収し、完全に水分が無く、ホコリや塵が付着していないことを確認します。
その後、眼鏡拭き等の眼鏡レンズなどの専用クロス等を用いてレンズを拭きます。
レンズを拭く際、極めてゆっくりと、やさしく一定方向に円を描く動きで、ゆっくりとレンズをふきます。
(2) 超極微細なキズは仕方ない?
残念ながら、レンズを拭く際、目に見えないレベルの超極微細な塵、あるいはホコリ等がレンズ、又は専用クロスには付着しています。
レンズを拭く動作の結果、超極微細な目には見えないレベルのキズをレンズ面に付けることになります。
しかしながら、レンズ面の清掃は最低限は必要です。
その必要に迫られた場合、円を描きながらゆっくりと、やさしく行う動作の方が、縦横方向へのキュキュッと拭き取る動作よりも、結果として発生する超極微細なスリキズは目立ちにくいとされています。
ここまでの話を聞いてしまうと、スコープの清掃に少し臆病になってしまうかもしれません。
ライフルスコープは狩猟の道具であり、常に過酷なアウトドアがその使用環境です。
製造側もある程度の使用環境を想定して用意されているのがライフルスコープ。
もちろん、綺麗な状態は美しいですが、使用者に求められる目的を果たしてこそのスコープ。
ユーザーは丁寧なケアを心がけながらも、ワイルドな環境でご使用ください。
(3) ダメージを負ったレンズはどうする?
仮にレンズ表面に多少のダメージ(傷や擦れ)が発生したとしても、ライフルスコープとしては普通に機能します。
厳密にその個体を検査すれば、光の透過率に大きな違いが発生しているはずですが、実用途としては、レンズ割れといった物理的なダメージではない限り問題なくご使用戴けます。
野外で使用する光学機器であるため、細かなキズは仕方ありませんが、大切なライフルスコープですので、出来るだけのケア(保護)は心がけてあげたいものです。
(4) アクセサリー類を活用
そもそもスコープを保護するためにアクセサリーを使用するという方法があります。
ビクセンのライフルスコープにはスコープのレンズを保護するカバーが付いています。
モデルによってカバーのデザインはそれぞれ異なります。
上の写真のものは透明なプラスチックでできている為、対物レンズ側と接眼レンズ側にカバーが取りついている状態でもとっさの使用に支障なく対応できるようなデザインになっています。
ライフルスコープ全体を保護するネオプレン素材のスコープカバーも便利です。
(5) 取り外すという選択肢
銃にライフルスコープを搭載した状態で運搬することで、ライフルスコープにダメージを与えるかも知れません。
そう思う場合は、マウントから取り外すという選択肢もあります。
通常は射撃場にてゼロインを改めて行う必要がありますが、ライフルスコープをマウントから取り外してしまうことが一番簡単です。
マウントやリングによっては、ゼロインを維持した状態で簡単に着脱が出来る高性能なスコープマウントもございます。
例えばデントラーマウントと、エラタック傾斜マウント(QLクランプ)は共にドイツ製ですが、着脱を繰り返しても着弾精度の高い再現性を有しているマウントです。
ご興味のある方はAEGハンターズショップ様にご相談してみてはいかがでしょうか。
■1年間ありがとうございました!
今から1年ほど前、AEGハンターズショップ様よりブログ連載の記事執筆プロジェクトについてお声掛けをいただいたことは、私にとってこの上ない光栄な出来事であり、そして大変貴重な体験となりました。
ライフルスコープにテーマを絞り、読者の方々にとって読みやすく、楽しい記事を準備するプロセスでは新たな気付きを得る瞬間も多く、私自身も勉強になったこの1年。
この場をお借りして御礼を申し上げます。
楽しい時間を本当にありがとうございました!ということで、いつかまた全国にあるどこかの射撃場で読者の皆さまにお会いできる時を楽しみにしています。
Happy Hunting&Shooting!
【VEMA(ベマ):プロフィール】
ドイツと狩猟とおいしい話という狩猟用光学機器に関する情報発信Websiteを運営しています。DoRaSight(ドラサイト)、ドイツ製のデントラーマウント、及びエラタックマウントの日本販売総代理店です。ドイツの狩猟見本市、狩猟事情にまつわるブログも不定期に書いています。よろしくお願い申し上げます。

銃猟歴11年、知識先行型の現役ハンターで、紀州系猪犬でヨメ様(スタッフの一人)と2銃1狗で狩猟中。狩猟、射撃、アウトドア用品の発掘・販売がライフワーク。公務員経験が影響し、狩猟を取り巻く各種法令に関心強め。狩猟誌『けもの道』(三才ブックス)の立上人であり、現在は制作協力という名のもと監修、取材、ライターなど、よろず屋として何でもこなす。射撃場や猟場で見かけたらお気軽にお声がけください。