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番頭でございます。

 

狩猟を最近始めた皆さんも、すでに何十年も狩猟をしているベテランさんも、ほとんどのハンターは、出猟時や有害鳥獣駆除で出動するとき、いわゆるハンティングベストを着用していると思います。

そう。オレンジ色のハンターご用達のアレです。

ウチのショップでもベストはもちろん、オレンジ色グッズをいろいろ売っておりますが、ときどき、お客様から「あのオレンジ色のベストって、着ないと何か違反になるんですか?」とご質問を受けます。

そこで、今回はハンティングベストのそもそも論、「みんな、どうして着るの?」を解説いたします。

 

1 法律上は義務も無ければ定義も無い!

そもそも論のそもそも部分ですが、ハンティングベストなるものに明確な定義はありません(少なくとも私は知らない)。

日本で狩猟を司る法律は、通称『鳥獣保護管理法』というやつですが、この法律の中に狩猟時の服装についての規定は何もありません。

狩猟をするに当たっての猟法や制度(狩猟免許、狩猟者登録など)を定めてはいるものの、オレンジなど目立つ色を身に着けることに関して、なーんにも定められていないのです。

 

オレンジ色のベストやキャップは

事実上、ハンターの「正装」?

 

つまり、狩猟をする上でオレンジ色などのハンティングベストを着用する法的義務は無い、のです。

鳥撃ちの場合はオレンジ色だと目立ち過ぎて鳥に逃げられてしまうのでグリーンのカモフラ柄で身を固める方もおられますが、それも違法ではないのです。

 

では狩猟時にオレンジ色のベストやキャップなどを身に着けるのは、ただの伝統? マナー? なのでしょうか。

 

2 ハンターカラー=ブレイズオレンジなのだ!

ハンティングベストを着る理由として、皆さん自然と頭に浮かぶのは「誤射防止」「安全第一」などのキーワードなどではないでしょうか。

そのとおり。ブレイズオレンジと言われる鮮やかなハンターカラーは、猟場となる山野において人間がお互いを視認するのに有効だとされています。

法律に書いてなくとも、グループ猟などの際に誤射されるのはまっぴら御免ですので、そりゃ自ら目立つもの着るわ!ってことです。

 

諸外国の狩猟関係法令までは存じ上げませんが、少なくとも海外のハンターたちもオレンジ色を身にまとって安全第一にハンティングを行うことが推奨されているようです。

インターネットで「hunting vest orange」とかのキーワードで検索すれば、オシャレな一般向けのはスルーして、ガチ系オレンジベストが多数出て来ます。

 

下記の動画はYouTubeに投稿されている海外動画ですが、猟場におけるブレイズオレンジの有効性を紹介したものです。

全編英語で製作されていますが、言葉は分からなくても動画を見るだけで、視認実験などからオレンジ色を身にまとうことの重要性が分かりますので、ぜひ一度ご覧ください。

 

オレンジ色は人間には目立ちますが、鹿や猪などの四足獣には視認できないと言われていることも、ハンターカラーとして採用されている理由の1つでしょう。

猪に関してはブルー系の色も分かるそうですが、概ね鹿や猪は、周囲をモノクロで認識しているそうです。

 

↑こんな感じで、待ち場に付いている共猟者がオレンジ色のものを身に着けてくれているので、人間には仲間の居場所が分かりますが、猪や鹿にはモノクロに見えているので、上手くハンターが茂みに同化すれば人の姿は「見えない」のです。

ただし、明暗の差や、動くものに対しては鹿も猪も反応しますので、タツマに着く際は、猪や鹿からどんな風に見えているか想像すると木化けが上手くなるかも知れません。

また、基本的に鳥は、色づいた実を食べることからも分かるように、赤系の暖色を認識できますので、オレンジ色を身に着けすぎると鳥猟のときには不利になることもあります。

 

3 「保険が降りない」というあるある伝説

ビギナー、ベテランを問わず、よく言われるのが「猟友会ベストを着てないと、何かあっても保険がおりない」という話です。

狩猟に関する保険というのは、民間の「ハンター保険」と、大日本猟友会の会員となることで加入する「狩猟共済」の2種類があります。

 

(1)ハンター保険

現在、ハンター保険は東京海上日動、損保ジャパンの2社が取り扱っています。

この2社の保険約款を読むと、保険金を支払い出来ない場合というのが掲載されていますが、少なくともハンティングベストを含む被保険者の猟装については何も言及されていません。

基本的に、被保険者の猟装は保険支払いと関係のないものと考えられます。

もちろん、私が勝手に約款を解釈したり、保険支払いの認否を決める権限や資格などはありませんので、気になる方は保険会社に直接お問合せください。

 

(2)狩猟共済

狩猟共済とは、大日本猟友会への会費支払いで加入できる「狩猟事故共済保険」のことです。

狩猟共済の約款は大日本猟友会のホームページで公開されています→狩猟事故共済普通保険約款

 

この約款を読んでいきますと、まず気になるのが第8条の「保険金を支払わない場合」ですが、ここには故意または重大な過失の場合、法令違反がある場合などは該当する旨の記述がありますが、例えば「猟友会ベストを着用していなかった場合」などの記述はありません。

なので「支払わない場合」と猟友会ベスト(またはハンティングベスト)の着用・非着用は無関係と言えます。

 

さて、問題となるのは第28条にあり、結論から言いますと、猟友会配布ベストを着用していなかった場合、保険金を減額される可能性はある、ということです。

 

【以下「狩猟事故共済普通保険約款」より抜粋】

第28条(保険金の減額等)

1 第4条第1項に定める他損事故の被害者が第 1種又は第2種銃猟構成員である際に、狩猟行為中又は指定射撃場における射撃練習中において当該被害者に本会の安全狩猟ベスト・帽子の双方又は一方を着用していなかった順守義務違反が認められる場合には、第8条の事由に該当しない場合であっても、審査委員会の裁定により支払うべき保険金の額の5%の額を上限として減額することができる。 

2 第4条第1項又は第2項の事故の際に、第1種又は第2種銃猟構成員である被保険者に次の順守義務違反が認められる場合は、別表5により、被保険者又は保険金請求者である損害保険会社に支払うべき保険金の減額、もしくは、被保険者に対して被害者に支払うべき事故賠償金の一部に相当する本人負担金の請求をすることができる。

(1)狩猟行為中又は指定射撃場における射撃練習中において、本会の安全狩猟ベスト・帽子の双方又は一方を着用していなかった場合
(2)狩猟行為中に、大粒散弾(6粒~15粒/弾)を使用した場合

 

抜粋した部分をさらに要約しますと、

 

事故の被害者も、被保険者(加害者)も、大日本猟友会の構成員(会員)である場合には、約款上どちらにも猟友会ベストと帽子の着用義務があって、着用していなかったら保険金が5~10%減額される可能性がある

 

ということです。

 

以前この約款では、猟友会ベストか、猟友会ベストと同等の視認性を持つベストを着用していればOKだったのですが、現在は猟友会配布ベストのみが狩猟共済保険の満額受領の対象となっていますので、ご注意ください。

 

ちなみに私は旧約款の時代に実際に山の中で狩猟中に骨折し、保険請求をしたことがあります。

その際に着用していたベストは猟友会ベストではなかったのですが、猟友会ベストとの視認性の差について問われましたので、分かりやすく比較写真を撮って送ったところ、保険金は満額いただいた記憶があります。

この私の事例は、いま現在では保険金が減額される可能性がある、ということになります。

 

現在の約款では減額されるというだけなので、保険金がゼロになることはないと思いますし、万が一の損害賠償については民間のハンター保険で大部分は事足りるということも言えると思います。

「ハンティングベスト(猟友会ベスト)を着ていない場合、保険がおりない」という伝説は、この減額規定が独り歩きし、過大な認識となっていったものと思います。

 

4 ローカルルールに注意

さて、法律、ハンター保険、狩猟共済と3つのルールを見て来ましたが、これだけではまだ十分ではありません。

それは皆さんがおられる地域のローカルルールというやつです。

 

具体的には、趣味で行う猟期中の狩猟は上記の3つのルールの確認で足りますが、有害鳥獣駆除や個体数調整など、狩猟とは別の許認可で行われる捕獲の場合、許可の条件や、駆除隊独自のルールとして、ハンティングベスト、あるいは猟友会ベストの着用を義務としている場合があるかと思います。

猟友会が主催する共猟会や射撃会なども同様でしょう。

法律や保険約款とは異なりますが、これはこれで地域や所属グループのルールですから、所属する以上は遵守すべきでしょうし、許認可にも絡んで来ますので、ぜひ事前に確認することをお勧めいたします。

 

5 結論:少なくともオレンジベストは着るのがbest!

まとめますと、着ていない場合の現実的な課題としては、法令違反はないけど、事故があった場合は狩猟共済の保険金が減額される可能性がある、ということになります。

 

ただし、保険金うんぬんは置いといても、安全第一を最優先とすべきということは、われわれハンターにとって共通のことと思います。

よって、猟友会ベストに限らず、少なくともオレンジのベストや帽子などは着用しつつ、安全第一で狩猟や有害鳥獣駆除を行うべき、という帰結には変わりはありません。

 

次回は、そんなハンティングベストの選び方や見どころを解説いたします。

 

 

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